恋愛映画を見る!「狙った恋の落とし方。」(2008):ネット婚活中の中年男、傷心の美女に出会う

恋愛映画を見るシリーズ、今回は中国映画「狙った恋の落とし方。 」(原題:非诚勿扰、2008,  馮小剛監督)です。



本作は葛優演じる中年男チンフェンがジャンケンマシーン(!)を発明して大金を手にし、結婚相手を探そうとインターネットの婚活サイトに登録するところから始まるのですが、まずこの主人公の書く婚活サイトの自己紹介文が秀逸です。


結婚相手求む ただし、いい男や金持ち目当ての方はお断り。修士以上の学歴保有者、女実業家(小売り商いは除く)もお断り。会うだけ無駄だ。アンディ・ラウやトム・クルーズみたいな才色兼備の男が結婚相手を公募するわけないだろ 当然、私も外国映画「ノッティングヒルの恋人」みたいな大それた夢は見ていない。そちらが超美人でも手に負いかねる。グラビア誌の表紙を飾るような肝っ玉が潰れるほどの美人なんて期待してません。ただ、今風の外見で内面はいささか古い、心身健康なごく普通の人なら、それで結構。もし多少なりとも奥ゆかしさがあれば、さらに言うことなしさ。 ゴチャゴチャ気を細かく回し過ぎない人で、年も若すぎない、洗濯ができて毎回きちんと買いたてのようにピシッとアイロンを掛けてくれるような人が希望です。いささか具体的過ぎたか…。一応、自己紹介もしておこう。私はもうそんな若くない。暮らし向きはまあまあ。タバコは吸うが酒はやりません。留学生として出国し、以来十数年海外で暮らしてきました。でも、大してまじめに学んだわけでなく、何となくやって来たにすぎません。現在は、学問成就することなく帰国、単刀直入に申せば「会社、株、おまけに学歴もない」、三つ揃ってナイナイ尽くしのエセ海外留学帰国組というわけです。人柄については五分五分、クソ真面目とは言えないが、生まれつき度胸がないので人殺しがもし法に触れないとしたって、そんな度胸もなし、まあ総じて言えば社会的には有益無害に類です。興味のある方、電話ください。ただし、冷やかしお断り (訳文のソースはhttp://www.suisui.ne.jp/~gsk/eiga-feichengwurao.htmlを使わせていただきました。)

う〜ん、素晴らしい…

何が素晴らしいって、この開けっぴろげな正直さです。

私は先輩デーティングコーチがやっていたインターネットのデーティングサイトのプロフィール紹介文をオプティマイズするサービスを手伝ったことがありますが、普通デーティングサイトのプロフィールは足し算(プラス表現になるところを足していく)と引き算(マイナス表現になるところをカットする)で作るものです。

本作の主人公であるチンフェンは自分の良い所を売り出すことなく、ただ正直に自分の求めているものといささか自虐的(?)な自己紹介をしているだけで、足し算・引き算の理論からいくと失敗作なのですが、私はこの紹介文はエンターテイメント映画のプロップとしてだけでなく、本当にデーティングサイトのプロフィール文としても秀逸だと思います。

その理由は3つありますが、まずはこの正直さから本物の人間の匂いがするということです。「出会い系サイト」などと呼ばれるデーティングサイトには、サクラや、誠実に結婚相手を探すわけではなく他の目的を持っている人間もいるというのは常識ですから(実際に映画でも墓を売りたいだけのセールスレディーが出てきます)、利用者はその辺に注意してこういったサイトを使うわけです。このチンフェンの紹介文には嘘くささや裏が一切ない、本物の人間の匂いがするので、それだけで読む人に安心感を与えるわけです。

もう一つの理由は、頭のいい大人であることを表現できているということです。「才色兼備の男が結婚相手を公募するわけがない」代わりに、こちらも同じようにすごい美人と出会おうとも思っていません、という文章は、現実世界を知るだけの経験をしてきた大人であることを表現しています。

そして一番特筆したいのが、この書き方は自分にコンタクトをとってくる相手を限定するということです。インターネット・デーティングサイトという場で起こるであろうことへの自分の期待値の設定が的確なので、金持ちや美男と出会おうとしている人やチンフェンのこの開けっぴろげのユーモアのセンスについていけない人は恐らくこのプロフィール文が気に入らず、コンタクトをとって来ることはないはずです。何千何万の人が利用するデーティングサイトでは、とにかく候補相手を絞る必要があるため、こういった相手を選ぶ書き方は時間の浪費を防ぐ意味でも有効です。

……ちょっと紹介文についてのくだりだけで長くなってしまいましたが、チンフェンはこのデーティングサイトを通じて色々な女性と出会います。ここの部分はコメディタッチで描かれているのですが、現実のデーティングサイトではあり得ないような設定(国際線CAのスー・チー、金持ちお嬢様のビビアン・スー!)に結構リアルな設定(セックスが嫌いな未亡人、墓を売りたいだけの女)が混じっていたり、チンフェンの発言がいちいち秀逸だったりして面白いです。

後半はチンフェンが気に入った、スー・チー演じるシャオシャオという女性が妻のいる男性と成就されない恋をしているというプロットを中心に動いていきます。

シャオシャオは妻のいるこの男性を愛していて一緒になりたいと思っているのですが、妻のいる男性は別れると言い続けながらも別れずに何年もたっていて、シャオシャオは精神的に参っていて、苦肉の策としてデーティングサイトに登録したというわけです。

この男、シャオシャオの事が好きなのはわかるのですが、妻と別れる覚悟も勇気もなく、なんとなく煮え切らない感じで観る者をイライラさせます(うまいですね、俳優さん…)

シャオシャオはこの男だけが好きなので、傷つき続けているわけですが、そこでチンフェンと出会うわけです。シャオシャオはチンフェンを素敵な人間だと思いながらもなかなか男への思いを断ち切れません。

これは悲しい状況ですが、全然珍しいものではありません。私は映画を見ながら、シャオシャオが私の所に相談に来ないことが歯がゆかったです(笑)。

シャオシャオのこの状況はノーコンタクト・ルールを使うべきケースの最たるものです。

この男ときっぱり別れて連絡を一切断ち、チンフェンと仲良くするべきです。

映画の終盤ではそれをチンフェンが試みようとして、いろいろな事が起こる…というような話になっています。北海道に旅行にいったり、見所はたくさんあるのでまだ見ていない方にはオススメです。

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